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VMG最適化と航海計器活用

はじめに

VMGは、艇種はもちろん、風や潮流、あるいは操船上の判断といった直接的な要因以外に、これを算定する目的によっても見方の変わるものです(ディンギーかキールボート、レーシングかクルージングかなど)。本項ではあくまでVMGに影響を及ぼす環境要因に関する基本的事項と、航海計器の活用法を主目的とした解説を行っております。このため、特定の観点から見た一般通念に照らすと、本項内容が説明不足や乖離に見える可能性もございますが、本項要旨に合うようVMGの定義付けや解説事項の取捨選択を行った結果である旨何卒ご了承ください。

VMGの定義

VMGとはVelocity Made Goodを略したもので、ここでは敢えて「マークやウェイポイントに最も早く到達できるコースと速度」または「上下で帆走時、最も速く上れる(下れる)コースと速度」という二つの定義を採用します。これらは本質的には同じものを指し、見方の違いでしかありませんが、前述の通り異なる目的においてはこの二つの定義を使い分けたほうが各々の尺度に当てはめやすいと言えるためです。なお、いずれの定義においてもVMGとはあくまでVelocity(速度)に関する尺度であり、特定の目的地(具体的な地点であれ風上/風下であれ)への到達時間における優劣である点は何ら変わりません。

VMGの概念

実際には風や潮流の影響が加味されるためここまで単純な図式にはなりませんが、VMGは概ねこのような図に表されます。ランニング時ヨットはラムライン(スタート地点から目標地点までの直線)に沿って走ることが出来ます(ピンクの矢印)。地図上ではラムラインが「最短ルート」ですが「最速ルート」かは別問題です(風向による船速の差)。図例は赤のコースへオフセットすることで距離の増加と引き換えにより速力を得た状態を示しています。VMGあくまでラムラインから垂直の延長線上(XTE)で考えるため、図例の場合いずれのコースでもVMGは同じ(目的地までの所要時間に差がない)ことになります。

風とVMG(基本)

風が真向い、真追手になることは稀なので、実際は風向を加味してコースを決める必要があります。コース選択に何も制約がない場合「下りのときは風と同じサイドへ、上りのときは風と逆のサイドへ」が基本となります。上図、追手の場合、風のほう=ポート側へ5度オフセットするだけで15度のアングルを確保出来ます。一方スターボード側で同じ速力を得るには風軸をまたいで25度ものコース変更が必要となります。操舵角度の差やジャイブ要否に加え、クロストラックエラーもポートのほうが遥かに小さいためポートで走ったほうが遥かにVMGは良くなります。一方、上り、タックの場合はこの真逆で、風のほうへタック(図例ではポートタック)するとラムラインから大きく外れてしまいます。

風の変化とVMG

ターゲットボートスピード
実際の帆走中に自艇のVMGを判断する上では、ある風力に対して出せているべき船速(ターゲットボートスピード=TBS)を把握しておくのが一般的です。半円が示された図がそのモデリングを簡素化した図例です。同じ性能の船が適切にセールトリムを行った状態で赤線で示した3種のコースを走った場合、Aは4目盛、Bは6目盛、Cは7目盛進んでおり、当然ながら単純な船速はCが最も出ています。一方、VMGは目標地点への速度(=所要時間)であり、これは風の階段(風軸に対し垂直に引いた黒い線)で判断されます。この場合、AはVMGで約3.9、Bは約4.5、Cは約2.5と、実際の船速とは異なる序列となります。この中で最もVMGが高いBが出せている船速がTBSとなります。

風向シフト
2つ目の図は風向が15度シフトした状態を示しています。風向がシフトした場合、シフトした側にいる船ほど大きくゲインするため、風向がこれで固定された場合、遅れを取っていたCが一気に挽回してきます。

ブロー/ラルとVMG
当然TBSは風速によっても変化します。ある程度続くブローが入っている場合、TBSが上がりコースもより風軸に近づけることが出来ます。VMGは速度とコースの2要素が複合しますが、速度を先に調整します*。ブローが入ってもすぐには上らず、その風力での新たなTBSまでまずは増速させます。その上で上らなければ、TBSに達していない船で上ろうとすると加速に時間がかかったり、最悪失速してしまいます。逆に風力が落ちた場合も、すぐにコースを落とさず落ちた風に応じたTBSまで減速するのを待ちます。この間は元の上り角度で僅かにでも距離を稼ぎ、適切なTBSまで船速が落ちてからコースを落とします

*速度を優先:これは普遍的なものではなく状況による他、テクニカルなトピックにおいてはコースを優先するケースも多分にありますが、本項要旨と外れるためここでは割愛しています。

潮流とVMG

潮流についてはまず潮汐予報を確認し、良い時間帯を選んで航行することが基本となります。特にラムラインと平行な潮流に対しては、操船により利を得たり不利益を緩和したりする特段の手立てがないためです。一方、ラムラインに対し角度がついている潮流はVMGに大きく影響します。

ランニングからオフセットする場合、ポートで走るかスターボードで走るかのみなら当然いずれもVMGは同じです。ですがここにポート側からの強い潮流があると仮定すると、ポートで走ればリーウェイ(潮流による船の横流れ)分実際のコースはラムライン側へ「押し戻して」もらえます。一方、スターボードで走ってしまうと意図的なオフセットに加え、リーウェイ分更にラムラインから「押し出されて」しまいます。また、ここに風向を加味すると更に難しい判断が必要となります。2つ目の図のような風向の場合、風に対して有効なオフセットは緑のコースに、潮流に対して有効なオフセットは赤のコースになってしまいます。この場合風と潮のどちらがより大きくVMGに影響するかを実際に走ってみて検証する他ありません。


航海計器の活用がポイント

ここまでのご説明は瞬間的な状況を切り取ったものであり、実際の航行時にこうしたことで一喜一憂するより大きなブローの中でしっかり走ったほうが良いという見方も出来ます。また、当然ながらセールトリム、ヒールアングルなどが影響するほか、艇種によっても風力によってもターゲットスピードは変化するため、瞬間的なVMGは何ら決定打にはならず、平均的に良いVMGを保持することが重要です。これは例え航海計器から明確な数値を得られる状況下でも容易なことではありませんが、得られた情報を適切に活用することで問題を単純化し、その中で最適な判断を下していただくことが出来ます。

GPSの活用

些か大雑把なご説明にはなりますが、ここでは敢えて、実際の航行中にすぐ実践可能なVMG向上法をご紹介します。VMGが「目標地点への進行度合い」である以上、その良し悪しは「進路と速度」という2つの情報のみである程度判断が可能です。即ち、「実際どれだけの速度で前進しているか=対地速度(SOG)」と「そためのコースオフセット=対地方位(COG)」の2点です。SOGとCOGはいずれもGPS一つあれば取得が可能です。ラムラインの方位が分かればCOGとの差でオフセットが簡単に求められます。このオフセット角度(距離の増大)と追加で得られた速力とを次の表に当てはめれば、VMGが好転したか悪化したかを判断することが出来ます。

例:5ノットでランニング時にオフセット20度のコース変更を行った場合、元のVMGを維持するのに必要な船速は+5%程度です。即ち、コース変更後にSOGで5.3ノットを超えていればVMGが良くなったと言えます

アップウインド時のVMG
風上にある目標地点を目指しクローズホールドで帆走している場合、そのコース自体がすでにラムラインからオフセットされています。この状態でVMGを考える場合も、クローズホールドアングルからのオフセットではなく、あくまでラムラインからのオフセットを考慮する必要があります。

例:クローズホールドアングル40度、SOG5.2ノットで帆走時のVMGは4ノットです。ここか5度落とすだけで必要な追加速力は10%にも達し、VMG4ノットを維持するのには5.6ノットが必要となります。

VMG(ノット) 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.5 6 6.5 7 7.5 8
5度 0.5% 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.5 6 6.5 7 7.5 8
10度 1.5% 2 2.5 3 3.6 4.1 4.6 5.1 5.6 6.1 6.6 7.1 7.6 8.1
15度 3.5% 2.1 2.6 3.1 3.6 4.1 4.7 5.2 5.7 6.2 6.7 7.2 7.8 8.3
20度 5% 2.1 2.6 3.2 3.7 4.2 4.7 5.3 5.8 6.3 6.8 7.4 7.9 8.4
25度 10% 2.2 2.8 3.3 3.9 4.4 5 5.5 6.1 6.6 7.2 7.7 8.3 8.8
30度 15% 2.3 2.9 3.5 4 4.6 5.2 5.8 6.3 6.9 7.5 8.1 8.6 9.2
35度 22% 2.4 3.1 3.7 4.3 4.9 5.5 6.1 6.7 7.3 7.9 8.5 9.2 9.8
40度 30% 2.6 3.3 3.9 4.6 5.2 5.9 6.5 7.2 7.8 8.5 9.1 9.8 10.4
45度 40% 2.8 3.5 4.2 4.9 5.6 6.3 7 7.7 8.4 9.1 9.8 10.5 11.2
50度 55% 3.1 3.9 4.7 5.4 6.2 7 7.8 8.5 9.3 10.1 10.9 11.6 12.4
55度 75% 3.5 4.4 5.3 6.1 7 7.9 8.8 9.6 10.5 11.4 12.3 13.1 14
60度 100% 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16
65度 135% 4.7 5.9 7.1 8.2 9.4 10.6 11.8 12.9 14.1 15.3 16.5 17.6 18.8
70度 190% 5.8 7.3 8.7 10.2 11.6 13.1 14.5 16 17.4 18.9 20.3 21.8 23.2

参考:oceansail.co.uk様

風力計のVMGモード

VMGは特定の目標に対する船速の最適化において重要なコンセプトではありますが、風力データやターゲットボートスピードやコースといった個々のデータから実際の帆走中にVMGを考慮するというのは有効でも現実的でもありません。この一方で、刻々と変化するウインドシフトも潮流もそれに対するセールトリムも、そしてその結果であるボートスピードやコースも全てを平坦化し、VMGという尺度に集約して表示すれば、上下において船のポテンシャルをどこまで引き出せているか、あるいはウェイポイントまでの航行がどの程度順調かを文字通りひと目で知ることが出来ます。Raymarineのi60など一部の風力計はボートスピードのデータソースと連携させることでVMGそのものを表示できるため、風や潮汐などの環境要因に対する乗り手の対応が船の進度にどう影響しているかをダイレクトに把握して試行錯誤し、操船技術の向上や経験の蓄積にお役立て頂けます。この一方、VMGは言わば「解」であり、それ自体が操船上の具体的な改善箇所を示すものではないため「途中式」たるヒール角度、コンパス方位、対水速度といった諸々のデータや、ご自身のセールトリムを検証することが重要です。

GPSプロッターとレイライン

(以下はRaymarine社のLighthouse3と呼ばれるOSを搭載したGPSプロッターをベースにしたご説明ですが、各社のGPSで同様の挙動が実現できる可能性があります。)レイラインにも異なる定義や活用法がありますが、ここでは「次のタック後に目標地点へ到達できるコースを取るために現在のタックで進むべき距離」と定義します(Raymarine Lighthouse3マニュアルより引用)。多くの場合GPSプロッターやオートパイロットといったナビゲーション補助系の装備は、そのまま使用しただけでは単純に現在の進路を保持する、またはウェイポイントなどの目標地点への直線距離をたどる、という挙動しか出来ません。一方、レイラインを用いたナビゲーション方式を用いることで、非常に多くのファクターを計算に入れてより有効なナビゲーションが可能となります。GPSプロッターにこうした挙動を行わせるには、現在の真風向(True Wind Direction=TWD)と固定のセーリングアングル(上下)または艇種固有のポーラーダイアグラムをインプットします(その他必要な機器は後述)。レイラインを用いた場合はこれらの入力情報に加え、リーウェイ(潮による横流れ)も加味したナビゲーションが行われます。

海図アプリ上にレイラインとTWDを表示した状態(1枚目)と、セーリングダイヤル他レイライン関連データウィンドウを2分割表示した状態(2枚目)。実際の帆走時には単純にレイラインとヘディングを合わせるのではなく、セーリングページ(2枚目右側)のデータを加味して実際の帆走アングルを判断します。これにより選定されたCOGがリーウェイによる補正を受け、レイラインに沿った最適なコースで帆走が可能になります。

レイラインナビゲーション実行に必要な外部データソース:風力計、対水速度計、GPS(多くはプロッターに内蔵)、ヘディングセンサー(オートパイロットなどの構成機器に含まれています)

レイラインとウインドシフト

レイラインは固定されるものではなく風向きによって変化します。RaymarineのGPSプロッターはレイラインに加え直近の真風向(TWD)シフトから風向の変動域を割り出して表示することが出来ます(緑と赤の網掛け部分)。これにより、その瞬間に表示されているレイラインを実際に辿って良いかを判断することが出来ます。

CASE1:下限値付近で走って風軸が上限側にシフトした場合
それまで辿っていたレイラインよりもバウアングルが落とされてしまうため、再度タックしなければウェイポイントまで到達できなくなってしまいます。

CASE2:上限付近で走って風軸が下限側にシフトした場合
オーバーセールしてしまうため、ウェイポイントまでの帆走距離が伸びてしまいます。

状況によるものの、上記いずれの状況も回避しうる方法としては網掛け部分の中腹部付近でタックし、上限、下限いずれからも適度な距離を保てるコースを選択することが推奨されます。当然ながらこれは風軸が頻繁に上下動している場合の対処法的なコース選択であり、網掛け部の中腹部を横断するようなコース選択が必ずしもVMG上の最適コースになるとは限りません。実際のコース選択は諸々のデータから逐次判断していくことで航路全体における平均VMGの底上げ、ひいては操船技術の向上に繋がります。

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