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Resources - 線維製品の着色法

唐突に!ロープの目利きに挑戦!

この2本のロープは、同一メーカーから同一名称で販売されているものです。高強度なハイテク繊維(ダイニーマ)100%のロープですが、一方は旧版、他方は新版です。といっても強度に差はなく、単に「旧:ダークグレー」「新:オールブラック」と呼称しています。でも、ぶっちゃけ私自身、最初入荷した時は見分けに苦労しました。皆さんはどっちがどっちか分かりますか
※強度に差はないものの、「ある点」において両者には雲泥の差があります。

太さが違う?すみません、それは私の撮影の腕の問題です(汗)。ちなみに、構造はどちらも同じ、12打ちシングルブレイドロープです。本稿は「着色」についての解説ですので、色に着目してみてください。実は、ちょっと広げてみると明らかに違うのが分かります

ああっ、もう答えが丸見えですね(笑)。でも光の加減かもしれない・・・ではもっとあからさまな比較画像を見てみましょう。もうこれで十分かもしれませんが、せっかく画像用意したことですし。

もうこれは誰がどう見ても全然違いますね。はい、断面です。Aは表面も、ストランドが重なっている内側の部分も、そして繊維を切った断面ですら例外なく真っ黒です。一方のBは、表面こそ見た目の違いはほとんどありません(ホント最初困りました)が、Bはストランドが重なっている部分は元のグレーが見えているし、繊維断面も全然色が違います。もちろん答えは、「Aが新型のオールブラック、Bが旧来のダークグレー」です。最後に決定的に違うことがお分かり頂ける比較画像をご覧に入れます。

なお、繰り返しですが、上記は「旧型は型落ち品」だとも「相対的に劣化品のような位置づけになる」というものでもありません。ダイニーマのグレードは同一で、当然強度に差異はありません。ただ、色については新型に軍配が上がります。これは純然たる時代の進歩、トレンドの変遷です。次で詳しくご紹介します。


後染め・先染め・原液着色

ここからが本題ですが、もう一つだけ寄り道させてください。まずはフレッシュな食材の数々をご覧頂きたいのです。もちろん本稿要旨に関係大アリなことですよ!本件に造詣の深い方にはきっと意図をお分かり頂けると思います。この例えを思いついたときの自画自賛感。
※前述の例とAB表記で紐づけています。

繊維着色法その1:後染め
(着色イメージはB-2のリンゴ)

繊維の着色法は「どの段階で色を付けるか」「どうやって付けるか」によって呼び分けがあり、それぞれ一長一短があります。後染めとは、繊維を編んだり織ったりして反物に仕上げ、これを丸ごと染色する方法です。ご家庭や学校などで、生地に蝋を染み込ませたり、輪ゴムなどで巻いて絞ったりして模様を付けたご経験がある方も多いでしょう。すごくざっくり言うとあれと同じ方法です。私も先日娘の保育園でやってきました。生地化したものを丸ごと染めるので「丸染め」と呼ばれたり、英語では「Piece Dye(ピース染め)」とも呼ばれます。工程は全く違いますが、生地の上からプリントする場合も、広義には後染めに類する加工法です。

後染めのメリット・デメリット

後染めは、安価で大量生産に向いていることが大きなメリットです。生地全体を染めるので基本は単色染めしかできないものですが、生地にする段階で染料が染み込まない繊維を織り交ぜることで、柄や模様を表現することもできます。また、色ムラが出やすいことを逆に利用して、生地に独特の風合いを出すこともできます。ジーンズなどが最たる例でしょうか。ただし後染めは色の定着度(染色堅ろう度)低く、発色も弱い傾向があるため、どうしても色落ちのリスクと隣り合わせです。更に、この方法は水を大量に消費します。しかも、染料だけならまだしも、染色の妨げになるタンパク質などを落とすための洗剤や漂白剤、さらには発色を上げるための触媒など薬品も多く使われるため、環境負荷が大きいことも昨今では見逃せません

船舶での後染め生地使用是非

iマリンでの後染め生地使用是非については、いくら安さが魅力でも、念ながら強く非推奨です。色落ちしやすいから、というのが大きな理由ですが、ここでは洋上、船上環境に照らして少し深堀りしてみます。

色落ち:風雨や海水など、濡れることは色落ちの大きな要因の一つです。「後染め」の名の通り、着色には染料が使われます。染料とは一般的に水などの溶剤に溶けるものを言い、洗濯での色移りはもちろん、ジーンズを履いてて汗をかいたらシャツに色が映ったという経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

色褪せ:単純に水で流れてしまうこと以外に、染料には耐光性が低いという副次的な欠点もあります。つまり、屋外で紫外線を浴び続けるような用途には染色生地は適さない可能性が高いのです。染色工程では染料の定着力を高める処理が施されることもありますが、色素そのものが褪せてしまっては元も子もありません。

色移り:身近な衣類でも同じですが、これが一番厄介です。単に生地自体の外観を損ねるだけに留まらず、生地から流れ出た染料は周囲に付着・浸透する恐れがあります。FRPは多孔質素材なので、染料が付着すると内部まで染み込んでしまい表面の清掃や漂白を行っても繰り返し色が滲み出てくるということが起こります。

染色生地がアウトドアファブリックとして販売されるケースは皆無ですが、特にご自宅の有り合わせの生地で艤装品カバーなどを自作される場合は注意が必要です。

繊維着色法その2:先染め
(着色イメージはB-1の赤たまねぎ)

生地にしてから染めるのではなく、糸の段階で染める方法です。当然ながら糸のほうが表面積割合が圧倒的に多く繊維内部までの浸透度合いも後染めよりはるかに高くなります。
※写真は後染め生地のイメージとして掲載していますが、この生地は後述の原着アクリル繊維で出来たアウトドアファブリックです(Sauleda社の agora layure)

後染めのメリット・デメリット

後染めより格段に色落ちしにくく、全体が同じ染料でそまってしまう「のっぺりした」後染め生地よりも表情が豊かな生地が出来上がります。生地する際、機械にセットする糸の位置や順番を調節することでボーダーやチェック柄などはもちろん、様々な模様やパターンを作ることもできます。ですがこれは、裏を返せば小ロットでの生産には向かない染色法であるとも言えます。一度織り上げの工程が始まってしまうと、途中で機械を止めて糸をかけ変えるということは手間の観点から難しく、その場合の材料ロスも結局は価格に転嫁せざるを得なくなるためです。

船舶での先染め生地使用是非

船内のインテリア(寝室やカーテン、シートの座面など)には、その高級な質感から採用のケースも出てきます天然繊維は現在でも染色で着色されることが一般的であるため、直接寝転んだり座ったりする場所に天然繊維を使う場合は自ずと染め物生地の採用率が高くなります。一方、やはりカバーやオーニングとしての評価は後染めと大差ありません理由も後染生地と類似です。手間とコストという観点から先染め生地は高級品という位置づけなので、耐久性を第一とする屋外用カバーとは適合用途が異なります

繊維着色法その2:原液着色
(着色イメージはのAの人参)

本稿における本丸です。すでに自然界で繊維として存在している綿やウールなどと異なり、ポリエステルやポリエチレンなどの化学繊維は繊維状に整形される前の段階というものがあります。液体であったり粒状、粉状だったりと整形前の様態は様々ですが、この繊維になる前の段階で材料に色を混ぜ込んでしまうことを原液着色、略して原着と言います。糸なり生地なり、すでに固形物として存在している材料への染色に対し、原着はSolution Dye(ソリューション ダイ)と呼ばれます(Solution=液)。後染めのイメージであるリンゴは一番外側だけが赤く、中身の大半は白です。赤玉葱(先染め)も、各層の表面こそ色がついているものの、あくまで固形物に後から色を付けているだけで、繊維と染料は別個に存在しているままです。一方の原着は、材料そのものと着色料が一体化しているため、非常に色落ちや色移りしにくいという特徴を持ちます。食材に例えれば正に人参のそれ(外側も切った断面も全てオレンジ)です。

原液着色のメリット・デメリット

大量の水や薬品を用いる染め物とは異なり、粉末状やペレット状、液状の着色料を化学繊維の原材料に混合して繊維に整形するため、環境負荷が遥かに軽いというのが原着の大きな特徴の一つです。SDGsが叫ばれる昨今、アウトドアメーカー各社も原着繊維を用いていることをアピールしています。着色には染料、顔料のいずれが用いられるケースもありますが、特に耐光性に優れる顔料を厳選使用しているというメーカーも多いため、メーカーが情報を出している場合はチェックしてみることで製品クオリティをより正しく見極められます。また、溶液が染み込まず染色が出来ない素材にも着色できます(PTFEや高強度ポリエチレンなどをはじめ、多くの化繊が該当)。原着繊維は製品として完成したときの色合いを希望通りに仕上げ、かつそれを一定の色合いで大量生産するために着色料の緻密な配合が必要で、色の切替時は機械洗浄に大きな手間がかかるなど製造のしにくさがあるのは事実です。当然ながら、後染め生地などと比較するとこうした製造上の手間は価格に転嫁されています。また、先染めの際には工程上存在する熱処理がないため、単に原着で色だけを付けただけの生地は、熱収縮を起こすリスクを抱えています。

船舶での原着生地使用是非

語弊を恐れず少々乱暴に言いきってしまえば、弊社は原着一択という立場です。糸、ロープ、UVクロスなどのオーニング生地、スピンクロスなどカラーバリエーションのある生地、はてはウェビング(ベルト)に至るまで、これら全てにおいて弊社では取り扱い開始時に原着であるか否かをメーカーに質します。もし原着でない場合は、前述の色落ち、色褪せ、そして何より色移りの懸念から弊社では採用を見送るケースがほとんどです。やはり既述ですが、高額な資産であるお船に装着した生地製品から色移りした場合、完全な原状復帰は困難を極めるためです。

原着繊維は熱収縮するという点についても、例えば「厳選した顔料で着色している」と謳うような、ものづくりに真面目なメーカーなら多くは対策をしています。例えばロープの場合、高強度繊維は熱処理によって強度と寸法安定性を高めるのが一般的です。カタログなどを読み込めば「Heat Treated」などのような表記でアピールされています。係留ロープなども収縮によって締まり、硬化してクッション性を失うため、繊維段階で熱処理を施したうえで敢えて緩く編むなどの対策が取られています。


本稿のまとめ・ポイント

染め物と原液着色の違いを知って素材選びに活かそう!
染め物より原着!染料より顔料!
色移りに注意!FRPは色移りに弱い!
性能の他に環境負荷も考えよう!原着はエコ!
「高い」理由を理解して、安易に値段に釣られないで!
メーカーの努力、意図を理解できる賢い消費者になろう!
上記を織り込んだ弊社のコダワリを知ってほしい!

PTFE原着糸
(自社ブランド)

3Dスキャン
カスタムカバー

ヨットセール
(自社ブランド)

カスタムオーニング
(各クラス用有)

アウトドア生地
(厳選繊維素材)

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